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京極堂人物大事典(仮)
京極堂のファンサイトです
楠本君枝
『魍魎』
 雛人形の頭を作っている。若い頃は大層綺麗な女性だった[頼子]
 母程美しい人は知らなかったし、母程優しい人は存在しなかった[頼子]
 すべすべした肌は、かさかさと乾き、張りのあった顔に皺が刻まれていく。柔らかかった指は節くれだち、髪に白髪が混じる。刻一刻と醜くなっている[頼子]
 苦労して頼子を学校に入れた[本人]
 薄気味悪い母親[頼子]
 人の中に牛でも混じったように愚鈍な声[頼子]
 薄汚れたブラウスに煤けたスカート、乱れた髪を纏めるでもなく、おまけに汚いサンダル。相変わらず化粧をしていないから、もの凄く醜い。不恰好[頼子]
 頼子が「母さんなんか死ねばいいんだ」と言った翌日からおかしくなる。「もうりょう」と口にするようになり、落ち着きがなくなる[頼子]
 皺に刻まれた醜い顔[頼子]
 突然、「出て行け!もうりょう!」と頼子に掴みかかる[頼子]
 三十代半ばの頭師[関口]
 人形業界で云う三月物――雛人形を得意をしているらしい[関口]
家について
    家は三辻[しんにょうが辷]の角にあるため二辺を道に晒している。
   木造の平家で、道に面した低い板塀の内側に申し訳程度の庭がある。
   そこには貧弱な柿の木が植えられているが、平家の屋根を越す程の高さ
   すらない。隣家とも少し隙間が開いている。おまけにその隣家は二階家
   で、錆びたトタン板が瓦屋根の向こうに覗いている。反対側はどうやら
   空き地のようだ。
    比較対象物がないのだ。だから余計にスケール感が狂い、箱庭の中の
   建物のような印象になる。
    戸口は閉門にされた武家屋敷のように板が十文字に渡され、釘で打ち
   付けられている。ただし厳重と云うまでには及ばない。[関口]
 思ったよりずっと若かった。化粧も一切していないし、服装も質素と呼べる範囲を通り越している。普通であればこのような身なりをしたなら十は老ける。なのに君枝は十分若い。欲目に見ても歳相応には見える。元来若作りなのか。明瞭[はっきり]した目鼻立ちの、所謂美人なのである[関口]
 窶れていると云うか、疲れていると云うか、何か芯が抜けているのだ[関口]
 顔色の悪さは、この不幸な境遇に依るものではなく、不摂生や栄養失調から来るものではないか。目の焦点が合わぬのも、同様の理由に因るものだろう[関口]
 上げた顔に深刻さはない。ただ、疲労困憊している[関口]
 知人を介した、最初の夫との離婚の交渉は呆っ気なく認められた[関口]
 その後何人かの男に騙され、辛酸を嘗めるが如き日日を延延を送る。それでも君枝は頼子だけは手放さずに、それは大事に育てたらしい[関口]
 戦争中は古い縁故を頼りに、父の兄弟子の許に身を寄せていたと云う。その兄弟子は面倒見が良く、頼子にも良くしてくれた。彼の故郷は福島だったから、一緒に疎開して、そこで人形作りを教わったのだと君枝は云った。当時、君枝の父より年上の五十代後半の兄弟子に、親切の代償に肉体を求められ、愚かなことに拒まなかった[関口]
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